発注書・注文書のような下請法上の3条書面には、書くべき内容や交付時期についてのルールが存在します。3条書面を適切に交付できていないと刑事罰が科される可能性もあります。この記事では、正しい記載内容や適切な交付時期の考え方を確認していきます。
1 発注書・注文書の書き方、書くべき内容
⑴ その発注書・注文書、適法ですか?
取引先との取引をするに当たり、多くの会社では、日々「発注書」や「注文書」のやりとりをしているものと思います。
発注書・注文書については、法定の書式があるわけではありません。
そのため、自社オリジナルのものを使用して差支えありませんし、実際には仕事の受発注がしやすいように、様々な工夫を凝らした発注書等が利用されている状況です。
一方で、下請法の適用がある取引については、下請法上のルールを守らなければなりません。下請法には、発注書・注文書に関するルールも定められていますので、オリジナルの書式で良いとはいっても、全くのフリーハンドではいられません。
この記事では、発注書・注文書に関する下請法のルールやよくある疑問・質問について、弁護士が解説していきます。
⑵ 発注書・注文書が重要な理由
そもそも、発注書・注文書は何故重要なのでしょうか。
これはあくまで私見ですが、一言で言えば「トラブル防止」ということではないでしょうか。
ビジネスの場において契約書などの書面を残すことはとても大事なことです。
これには、契約を結ぶに当たって事前に慎重に契約内容を確かめるためという意味もあるとは思いますが、のちに何らかのトラブルが生じた場合に、「言った」「言わない」という状況になってしまっては困るという事情も、比重は大きいように思います。「契約書のとおりか否か」となれば話が早いというわけです。
特に下請法の想定している「親事業者」「下請事業者」という力関係のある二者間では、契約段階で契約内容に一方的な不利が生じていたり、契約後のトラブルについて力関係を背景に一方的に負担を強いられるということがあり得ないではありません。
そのため、下請法においては、特別に「書面の交付義務」というものを親事業者の義務として定め、交付すべき書面の内容を指定して、二者間のトラブルを未然に防止しようとしているというわけです。
さらに、トラブルが生じた際には、「書面には何と書いてあるか」という観点から、事案の解決を図っていくことになります。
例えば、親事業者が下請事業者に仕事のやり直しを指示した場合、下請事業者がその指示に無償で従うべきかどうかは、書面に記載された発注内容(給付の内容)に合致しているかどうかが重要になってくるという具合です。
こういった観点から、下請法において、発注書・注文書は、その取引関係の基礎となる重要な書面であるということが言えると思います。
⑶ 下請法上書くべき内容(3条書面)
下請法第3条1項は、親事業者が下請事業者に製造委託等をした場合には所定の事項を記した書面を交付しなければならないとしています。
ここで書面に盛り込むべき内容ですが、これは下請法ではなく「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則」という、大変分かりやすい名前の規則によって詳しく定められています。
具体的には下記の通りです。
①親事業者及び下請事業者の商号、名称
②製造委託等をした日
③下請事業者の給付の内容
④給付を受領する期日
⑤給付を受領する場所
⑥給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
⑦下請代金の額
⑧下請代金の支払期日
⑨下請代金の全部又は一部の支払につき手形を交付する場合は、その手形の金額及び満期
⑩下請代金の全部又は一部の支払につき、一括決済方式を採用する場合は、金融機関の名称、貸付け又は支払を受けることができることとする額、当該下請代金債権又は当該下請代金債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日
⑪下請代金の全部又は一部の支払につき、電子記録債権で支払う場合は、当該電子記録債権の額及び当該電子記録債権の支払期日
⑫原材料等を親事業者から購入させる場合は、その品名、数量、対価及び引渡しの期日並びに決済の期日及び方法
いかかでしょうか。
羅列すると、あまりイメージが湧かないかもしれませんね。
では、下記でシンプルな具体例を見てみましょう。
2 発注書・注文書の具体例
おそらく、最低限必要な内容を盛り込むと、このような内容になるかと思います。
(具体例中の①~⑧は上記2の番号と対応しています。)
なお、⑧下請代金の支払期日・支払方法については「基本契約書」記載の内容を引用するかたちで記載しています。
こういった、取引関係の基礎となる基本契約書と個別の発注書・注文書をそれぞれ交付するスタイルでの発注・注文のルールについては、詳しく後述します。
3 発注書・注文書はいつまでに交付すべき?
さて、上記のような重要性のある発注書・注文書ですが、下請法上は、いつまでに交付するべきとされているでしょうか。
下請法第3条1項には、製造委託等をした場合は「直ちに」発注書等のいわゆる3条書面を交付しなければならないと定められています。
「『直ちに』って、結局いつまでなの?」と疑問に思う方もいらっしゃると思いますが、法律のいう「直ちに」というのは、文字どおり「すぐに(直ぐに)」とか「即時に」という意味です。
製造委託等の契約が成立してから間を置くことなく発注書・注文書といった書面(3条書面)を揃えておくことが、トラブル防止のためには必要だということと思われます。
4 あとから交付するのは違法か?
⑴ 原則はすぐに交付
上記のとおり、発注書・注文書といったいわゆる3条書面については、製造委託等契約を行った場合はただちに交付を求められるものです。
例え何か緊急の事情があって、電話で(あるいは口頭で)商品の発注をした場合であっても、その後ただちに発注書・注文書等といった3条書面を交付しなくてはなりません。
しかし現実には、様々な理由で、ただちに「全て情報を網羅した」3条書面の交付が難しい場合もあります。
では、例外的な扱いはないのでしょうか。
⑵ 例外的にあとから「補充」できる場合がある
繰り返しになりますが、発注書・注文書といった3条書面の交付時期は、契約成立後「直ちに」です。
この点はぶれることはありません。
一方で、上記で触れた3条書面に書くべき項目のうち、発注時にはどうしても具体的に書けないものがあるという状況もあり得ることではないでしょうか。
例えば、時計の修理の委託(修理委託)のケースを考えると、「時計が動かないから修理して欲しい」という依頼があったとして、下請事業者が実際に行う給付(修理行為)は、時計が動かない原因が分からないことにはその内容を定めることができません。
電池交換なのか、歯車のずれを直すことなのか、針のゆがみをとることなのか、それは修理委託を受けて実際に調べてみないことには分からないということです。
さらに、対処方法や修理に必要な部品が変われば、当然、必要な費用も時間も変わってくることになります。そうすると、給付の内容のみならず、下請代金の額や納期(納入日)も変わってくる可能性があります。
そのため、このようなケースでは、3条書面に記載が必要な項目のうち「内容が定められないことにつき正当な理由があるもの」についてはこれを記載せず、かわりに内容が定められない理由及び内容が定められるようになる予定期日を記した、「当初書面」という書面(これも3条書面の一形態です。)を交付すれば良いとされています。
当初書面を交付した場合には、情報として欠けてしまった給付の内容等を補うために、後日「補充書面」を交付することになります。
この場合には、「この書面は○年○月○日付発注書の補充書面となります」といったように、書面同士の関係性が分かるようにすることになります。
このように、あとから発注書・注文書の内容を「補充」することは、条件付きではあるものの下請法上認められています。
しかし、3条書面(当初書面)の交付自体は、やはり原則どおり契約締結後「直ちに」です。
この点と、それから補充書面で補充をする事項については「その内容が定められないことにつき正当な理由があるもの」のみであるという点に注意しましょう。
⑶ 基本契約書+発注書・注文書の場合
ほかにも、継続的な取引を行う場合に、取引の基本となる事項や個々の取引に共通する事項をまとめた基本契約書を、取引のはじめに取り交わすということもあるのではないでしょうか。
基本契約書には、契約の期間や支払方法・支払時期に関する事項、検査に関する事項、契約の解除や損害賠償に関する事項などがまとめられていることが多いと思います。
一方、基本契約書に基づく基本契約のみでは、具体的な発注までには至っていません。個別のタイミングで発注書・注文書などに基づいて発注がなされることで、はじめて具体的な製造委託等があったと考えられるわけです。
このような「基本契約書+発注書・注文書」スタイルでの受発注の契約の場合、下請法の運用では、
①具体的な発注の都度、3条書面(発注書・注文書等)の発行が必要である
②この3条書面(発注書・注文書等)に記載するべき事項のうち、基本契約書にその内容が記載され下請事業者に通知されている場合には、3条書面には「○○については現行の『基本契約書』による」と付記すればよい
というかたちで整理しています。
したがって、「基本契約書+発注書・注文書」スタイルの場合は、下請法上の解釈としては、「後から」3条書面を発行しているのではなく、「先に」3条書面に書くべき内容の一部を抜き出して書面化している、と考えられているということです。
なお、このスタイルを採用する場合の基本契約書には、その書面が有効である期間の明記が必要とされています。
自動更新がされる場合や、新たな合意をして書面を作成するまでは有効とする場合には、その旨も記載しなくてはなりませんので、この点にも注意して基本契約書を作成するようにしましょう。
5 下請法違反の場合のリスク
最後に、こういった発注書・注文書のルールに反した場合、下請法上どのようなリスクやペナルティがあるかお伝えします。
下請法違反のリスクと考えると、よくニュースなどで報じられる「勧告」が思い浮かぶのではないでしょうか。
下請法第4条違反(下請代金の支払遅延など)が認められた場合、公正取引委員会によって勧告がなされることがあります。勧告は、公正取引委員会のホームページなどで企業名を含めて違反事例として公表されることになりますから、自社のイメージを大きく損なうことに繋がります(しかも過去の勧告事例も見ることができますので、長期間影響が残る可能性があります。)。
ただし、今回解説した発注書・注文書についての条文は、下請法の第3条に関するものですので、実はこれに違反したとしても、勧告(下請法第7条)の対象とはなりません。
しかしながら、当然お咎め無しということではありません。
発注書・注文書のような3条書面を交付しなかったときは、下請法第10条1号によって、「五十万円以下の罰金」の刑事罰が科されることになっています。
科される対象は会社だけでなく、実際に違反行為をした会社の代表者、代理人、使用人、従業者なども含まれます(第10条柱書、第12条)。
会社のみならず個人の経歴にも傷がついてしまうおそれがあるということですから、発注書・注文書の適法な交付には十分気を付けるようにしましょう。
6 まとめ
いかがだったでしょうか。
発注書・注文書といったいわゆる3条書面の交付には、上記で解説した以外にも、下請代金の記載を算定方法の記載に変えるときのルールや、メールなどの電磁的な方法で発注・注文をするときのルールなど、細かい決まり事があります。
全てのルールに気を配るのは大変なことですが、一度自社のシステムや制度・運用に落とし込んでしまえば、あとは自動的に適法な状態での取引を続けられることに繋がります。
しかし、これは裏を返せば、自社で共通する運用等が適法・適切でない場合には、自社の行う多くの取引で、下請法違反が生じてしまっている可能性があるということでもあります。
是非これを機会に、発注書・注文書に関わる自社の状況をチェックしてみてはいかがでしょうか。その際にもし何かご不明な点がでてきましたら、是非グリーンリーフ法律事務所の顧問契約をご検討ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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