住宅の建築に絡んで法律的な問題が発生することがあります。今回は、代理権の有無、成年後見、窓の目隠し、日照の利益、追加・変更工事をあげてみました。

1 はじめに

建築業をしていると、住宅の建築に絡んで苦情、クレームを受けることがあります。そのようなクレームにも、大きなもの、小さなものがありますが、今回は、いくつか例をあげ、その対処法を考えてみました。

2 代理権の有無

 (1) 事例

   建売住宅の敷地にするため、「父が寝たきりで、土地の売却を任されている」と言う息子と父名義の土地の売買契約をした。売買契約書には、息子が代理人として署名、押印した。息子であることは、戸籍の全部事項証明書と運転免許証で確認した。

決済が終わり、移転登記も行ったが、父が出てきて、自分は寝たきりではないし、息子に土地の売却を依頼したこともない、移転登記を抹消してくれと言う。

 (2) 対処法

  ① このような場合、息子が父を代理して契約をするときは、息子に、父の実印を押した売買契約締結の委任状、司法書士に対する実印を押した登記委任状、印鑑証明書、権利証を提出させる必要があります。

   本件の場合、移転登記ができているのですから、このような書類は息子に提出させたと思われます。問題は、このような書類を取れば十分かどうか、つまり仮に、父が買主に対し、移転登記抹消の訴訟を起こした場合、買主は勝てるかどうかです。

   結論から言うと不十分です。息子は、父の実印を持ち出したり、印鑑登録カードを使って印鑑証明書をとったり、権利証を持ち出したりすることができる立場にありますし、また、土地の売買とは違う理由を父に行って、白紙の実印を押した委任状をもらい、印鑑証明書、権利書などを預かることもあり得ます。

 それでは、買主は他にどのようなことをすべきだったのでしょうか。買主は、父を訪問するなり、少なくても父に電話をし、本当に土地を売る意思があるのか確認する必要がありました。このようにしていれば、今回のようなトラブルは避けることができました。

  ② 息子に土地の売却を依頼したことはないという父のクレームに対し、今後、どのように対処すべきでしょうか。

まずは、息子、父からよく事情を聞いてください。父の説明に説得力があり、息子は行方不明というような場合、本当に父は息子に依頼していないという可能性が大きくなります。

   それでは、父が息子に本当に売却の依頼していないとしたら、どの後はどうしたらよいでしょうか。

   民法には表見代理という制度があり、父の落度と買主の落度を比べ、落度の小さい方を保護するという制度があります。父の落度が大きく、買主を保護すべき必要が高いとなると、本当に父が息子に委任をしていなくても、買主が勝つ(移転登記を抹消しろという父の要求は認められない)ことがあるのです。

※ 父の落ち度
実印、印鑑登録カード、権利書を息子が持ち出せるようにしておいた。あるいは、息子に違う理由を言われ、騙されて実印、印鑑証明書、権利書を渡してしまった。

※ 買主の落ち度
息子は父の実印、印鑑登録カード、権利書を持ち出せる可能性が高いのに、訪問、電話などにより父の意思確認をしなかった。

   裁判になれば、これらの事情を含む具体的な事情を裁判官が考慮し、父と買主のどちらを勝たせるのかを裁判官が決めることになります。

3 成年後見

 (1) 事例

父と息子(長男)が来て、二世帯住宅を建てたいという。父の判断能力にやや疑問があったが父には財産もあり、また息子が来ていることもあって、父との間で請負契約を締結した。そして、部材の準備なども開始した。

  その後、二男が来て、「父には判断能力がないため、裁判所で成年後見の開始決定を受けており、私(二男)が後見人となっているので、請負契約は取り消す。請負代金は支払えないし、すでに支払いをしたお金については返還して欲しい」と言う。

 (2) 対処法

① この父のように、判断能力がなく、裁判所がその旨を認めて成年後見開始決定をした人のことを成年被後見人と言います。後見開始決定をしてもらう目的は、父が自分の判断で、売買契約、請負契約などをしてしまい、経済的な損害を被るおそれがある場合に、父の行った行為を取り消すことができるようにするためです。

 二男の言い分に対し、どのように対応したらよいでしょうか。まずは、本当に成年後見開始決定を受けているかどうか、登記事項証明書で確認してください。成年後見開始決定を受けているなら、成年後見登記に関する登記事項証明書が取れますし、開始決定を受けていないのなら、登記されていないことの証明書が取れます。全国の法務局・地方法務局の戸籍課で取ることが可能です。

 ただし、証明書の請求ができる方は、本人・その配偶者・四親等内の親族など一定の人に限定されているので、これらの方に取ってもらうことになります。

 ② それでは、成年後見開始の決定を受けているとしたら、どのように対応すべきでしょうか。

   開始決定を受けているとしたら、取り消しを受け入れざるを得ません。すでに、受け取った請負代金は返還し、部材の準備に要した費用などは損害として残ってしまいます。能力に疑問がある場合は、登記事項証明書、登記されていないことの証明書をとってもらうのが安全です。

4 目隠し

 (1) 事例

2つの宅地が接しており、北側宅地にはすでに建物が建っている。南側宅地の所有者と住宅建築の請負契約をして建物を建て始めたところ、北側住人から、窓に目隠しを設置するよう要求された。建築中の建物は、北側境界から50センチ離れている。

 (2) 対処法

   境界線から1メートル未満の距離において、他人の宅地を見通すことができる窓または縁側(ベランダを含む)を設ける者は目隠しを付けなければなりません。そこで、この事例の場合は、目隠しを付けざるを得ないということになります。

以下、対処法とは少し違いますが、覚えておくとよいので、目隠しで問題になるところをあげてみます。

  ① Aの窓の下部が床から1.2メートルの高さのところにある場合、Bは目隠しの設置を求めることができるでしょうか。これはもちろんできます。それでは、床から2メートルの高さの場合はどうでしょうか。床から2メートルの高さがあると、その窓から他人の宅地を見通すことはできないので、目隠しを付ける必要はないとされています。

 ② Aの窓が開閉可能な曇りガラスだった場合はどうしょうか。開閉可能であれば、

   目隠しを付ける必要があります。

   Aの窓が、居室の窓ではなく、階段や洗面所の通風、採光のために設けられている場合はどうしょうか。この場合も、他人の宅地を見通すことができますので、目隠しを付ける必要があります。

 ③ 先に、南側に家が建っており(北側境界線より1メートル未満の距離に窓を有する)その後、3年後に北側に家が建てられた場合、北側住人は、目隠しの設置を要求することができるでしょうか。この場合でも、原則として南側住人は目隠しを設置しなければならないとされています。

 ④ 隣地が作業場や事務所の場合、目隠しを付ける必要があるでしょうか。「他人の宅地」というのは、他人がそこで「私生活を営んでいる場合」というとされているので、この場合は目隠しを付ける必要はありません。

5 日照の利益

 (1) 事例

  建物の建替えの請負契約をし、建築を始めたら、北側に位置する隣人から、新しい建物によって日照時間が減るので、その建物の建築を一時ストップし、もっと日照時間が増えるように設計を変更してくれと言われた。

 (2) 対処法

   仮に、日照の利益を侵害している場合、北側の隣人は、その侵害の程度に応じて、建物の設計変更、損害賠償を請求することができます。

   どのような場合に、これらの請求をすることができるかですが、日照の侵害によって生じた損害が、社会生活上一般的に加害者において忍容するのが相当とする程度を超えたとき(受忍限度を超えたとき)とされています。設計変更は受忍限度を超える程度が著しい時、それほどではないが、受忍限度を超えるというときは、損害賠償のみが認めらます。

   建築基準法の日影規制に従っている場合は、建物の建築によって日照時間が減るとしても、一般的には受忍限度の範囲内とされています。したがって、今回の北側住民からの要求は、法的には難しく、拒否することも可能です。但し、日照時間が減る程度が著しい場合は、損害賠償が認められることもないとは言えないので、必ず受忍限度の範囲内になるという訳ではありません。

   実際の訴訟などでは、損害賠償も認められないことが多いのですが、仮に、損害賠償が認められるとした場合、30~40万円程度が多いのではないかと思います。

6 追加・変更工事

 (1) 事例

  注文主の要求に応じて追加・変更工事を行い、後に、追加・変更工事の代金を請求したら、これはサービスでやってもらったもので、請負金額も決めていないし、追加・変更工事の契約書もないから支払いはできないと言われた。

 (2) 対処法

   追加・変更工事の契約は口頭でも成立しますし、その時点で請負金額を決めていなくても成立します。

   行った工事が本工事ではなく、追加・変更工事であるということは、本工事の見積書、仕様書には、追加・変更工事部分は入っていないということから証明することになります。逆に言うと、追加・変更工事と本工事が区別できるよう、本工事について、明確な見積書、仕様書を作成しておくことが必要です。

   今回の場合、注文主は、サービスでやってもらったのだから支払わないとの主張ですが、本工事には含まれない追加・変更工事であるということが明確になれば、サービス工事だったという特段の事情を注文主が証明しない限り、注文主の主張は認められない可能性が大です。

   ところで、注文主の主張が認められないとしたら、請負金額はどうやって決めるのでしょうか。この点は、追加・変更工事の内容に照応する合理的な金額ということになり、仕事の規模、内容、程度、業界内部の基準などの諸事情を考慮して決めることになります。当事者間で話し合いがつかなければ、請負代金請求の裁判を起こし、裁判官が決めることになります。

   なお本来は、争いを防ぐためには、追加・変更工事は有料になる旨を注文者に言い、面倒でも、追加・変更工事の内容、請負金額について契約書を作っておくことが大切です。

  次回は、今回の後半として、建築に絡んで問題になる事例と対処法をさらに考えたいと思います。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

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