住宅の建築に絡んで、法律的な問題が発生することがあります。今回は、工事途中の消失、事情の変更、注文者に確認することなく行った杭工事、注文者による一方的な解約、瑕疵がある場合の責任をあげてみました。

1 はじめに

  建築業をしていると、住宅の建築に絡んで苦情、クレームを受けることがあります。前回に続いて、その対処法を解説してみました。

2 工事途中の焼失

(1) 事例

  建物完成前に、隣家からの出火によって建物が類焼した。注文者は、追加の請負代金なしで建物を完成するよう主張している。

(2) 対処法

 ① このような場合、いくつか問題が出てきます。まず、請負人は、建物を完成する義務があるかという点ですが、建築中の建物が消滅しても、請負人が新たに同様な建物を再築することは可能なので、請負人の仕事完成義務は消滅せず、建物完成義務があるとされています。

 ② それでは請負人は、請負代金の増額を請求することができるでしょうか。請負人には、建物を完成する義務がありますから、自らの費用負担で建物を再築しなければならず、請負契約時より費用が増加しても、その費用を注文者に請求することはできません。

 ③ 類焼後、新たに建物を完成するとなると、完成が工期より遅れることが予想されます。しかし、この場合の工期の遅れは、請負人の責任ではありませんので、請負人が遅延の責任を負担ことはありません。

 ④ ここで、請負人からみた対処法なのですが、本件のように出火によって建物が類焼したとか、あるいは地震によって建物が崩壊したなど、不可抗力による場合、発生した損害を注文者にもってもらう(つまり、建物を完成させるのであれば、その費用は注文者に負担してもらう)ことはできるのでしょうか。

結論からいうと可能で、もらい火、地震など不可抗力による場合は、それによって発生した損害は注文者が負担する、ということを請負契約書で定めておけば、その効力が認められます。

3 事情の変更

(1) 事例

  工事の途中で資材が急騰したため、請負代金の増額を注文者に申し入れたが、注文者は請負金額が決まっているとの理由で拒否した。

(2) 対処法

① この場合にも、いくつかの問題が出てきます。まず、請負代金の増額は認められるのでしょうか。工事内容の変更がない限り、原則として請負代金を変更することはできません。定額で請負代金を取り決めるということは、契約後に発生するであろう資材の値上がりや人件費の変動といった経済情勢の変動も見込まれていると考えられるからです。

 ② それでは、増額が認められる場合はないのでしょうか。認められる場合もあるのですが、これは、契約時に予測することができず、請負人の責めに帰することができない事情の発生に起因するもので、請負代金額に限ったのでは、契約当事者間の信義公平の原則に反するであろうと認められるような著しい事情の変更があった場合に限るとされています。

   たとえば、どこかで戦争があって、特定の資材が考えられないくらい急騰したというような場合です。非常に稀なケースと言ってよいでしょう。

 ③ ここで、請負人からみた対処法ですが、資材の高騰などに備えて、契約書で、契約締結から1年を経過した後の工事部分に対する請負代金相当額が適当でないときは、当事者は、相手方に対して、理由を明らかにして必要と認められる請負代金の変更を求めることができる、というような定めをすることは可能です。

   ただし、どのような場合でも請負代金の変更が可能とすると、消費者の利益を一方的に害する特約は無効とするという消費者契約法の規定によって、特約が無効とされることがあり得るので注意が必要です。

4 注文者に確認することなく行った杭工事

(1) 事例

   軟弱地盤であったため、杭を打つ必要があると考え、杭を打って施工したが、そのことが注文者に伝わっておらず、杭の施工代金の支払いを拒否された。

 

(2) 対処法

  ① この事例は、請負人が杭を打って施行したものですが、杭を打つ必要があるのにかかわらず、「請負人は建築請負をするだから地盤にはかかわらない」として、杭を打たずに建築することができるでしょうか。杭が必要なことが判明したのにかかわらず、杭を打たずに施工した場合、請負人の不完全履行として損害賠償責任が生じます。つまり、地盤にはかかわらないという言い訳はできません。

  ② 次に、注文者に確認することなく、杭を打った場合、その費用を注文者に請求することはできるでしょうか。

ここでは、杭を打つ必要性があったかどうかが問題になり、必要性があるのであれば、注文者は請負人の損失において利得を得ており、注文者は不当利得を得たとして費用を請求できるという考えもあり得ます。

反対に、注文者に確認することなく、注文者に無断で杭を打って施工した場合、請負人の行動は信義誠実の原則に反するとして杭打ちの費用を請求できないという考えもあり得るところです。これは請負人は、請負代金の範囲内で普通に使用できる建物の建築を請け負ったと考えられるし、他方、杭打ちが必要な場合、注文者は家を建築するかどうかも含めて検討することもあれば、家の構造を変更することもある、また、請負代金を検討することもあれば、違う地盤改良の方法を選択することあるので、杭うちの費用を負担することになるのは酷だという考えに基づくものです。

  ③ 結局、杭を打つ必要があると請負人が判断した場合は、杭を打つ費用を注文者が負担するのかどうか注文者と相談の上、費用負担をしないということであれば、請負契約をしない、あるいはすでに請負契約をしているのであれば、請負契約を合意解約するなどの対処が必要ということになってきます。

5 注文者による一方的な解約

(1) 事例

請負契約をした注文者が、理由を言わないまま、一方的に請負契約を解約したいと申し出てきた。おそらく他社で施工するつもりだと思われる。

(2) 対処法

 ① このような場合、注文者は一方的に請負契約を解約することができるのでしょうか。結論から言うと、注文者は契約を解約することができます。これは、契約成立後、注文者が、何らかの事情で請負人による仕事の完成を必要としなくなった場合にまで、請負人の仕事を継続させることは、社会経済上も不要であり、注文者にとっても無用のことだと考えられるからです。

 ② それでは請負人は、それまでにかかった費用を注文者に請求することができるでしょうか。これまでに行ってきた設計、建築確認の費用、部材をカット代などがこれまでかかってきた費用ですが、請負人はこれらの費用を注文者に請求することができます。

 ③ さらに、請負契約を履行して建物を完成していれば得られたであろう請負人の利益も注文者に請求することができるでしょうか。この点は、民法によれば請求することができるとされています。注文者は一方的に解約することはできるが、請負人の利益まで支払わなければならないので、その経済的な負担は大きなものになります。

   注文者が一方的に請負契約を解除したいと言ってきたときには、解除した場合は、請負人がその建築によって得ることができた利益まで賠償しなければならないことを説明し、解除を思いとどまってもらうか、それができない場合、得ることができた利益の賠償を請求するか、そこまでは請求しないとしても、実費についてはすべて賠償してもらうというスタンスで行くとよいと思います。

6 瑕疵がある場合の責任

(1) 事例

  施工した建物に瑕疵があり、注文者が瑕疵の補修を要求してきた。その瑕疵は重要なものではなかったが、補修をすると多額の費用がかかる。

 

(2) 対処法

  ① 重要でない部分とは、材質・寸法の相違、内装関係の瑕疵、美観にかかわる瑕疵などを言い、重要な部分とは、建物の基礎部分、躯体部分などの建物の安全性や耐用性と直接かかわる部分を言います。

    重要なのにかかわらず、補修をすると多額の費用がかかる場合とは、例えば、壁と天井との間に隙間があるが、これを補修するとなると何百万円もかかるというような場合です。

② この事例のように、瑕疵は重要なものではなかったが、補修をすると多額の費用がかかるという場合、民法では、補修をする必要はなく、金銭賠償だけをすればよいと定めています。

 

③ それでは、金銭賠償請求をする場合、何が金銭賠償の対象となるのでしょうか。一般に、目的物の交換価値の低下相当額、慰謝料などと言われています。先ほどの例のように、壁と天井との間に隙間があるが、これを補修するとなると何百万円もかかるという場合、隙間があってもそれによって建物の交換価値はそれほど下がりませんし、また、慰謝料も簡単に認められるものではないので、何百万円もする補修を注文者から補修の請求をされた場合でも、比較的強気の交渉をしていくことが可能です。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

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